先生の学校

特集:高濱先生インタビュー

「先生の学校」は、教育へのあふれる想いが結集された学校・教員支援の場
 ~高濱正伸先生インタビュー~

 


■「先生の学校」誕生秘話

―「先生の学校」のアイデアはどのように生まれたのですか?
高濱正伸先生(以下、高濱):学校の先生たちからの要望です。「先生が生徒の学校」があってもいいんじゃないかと。1年ほど前に、こども教育支援財団の大橋博理事長が訪ねてきてくださり、塾からスタートされてからの話などをお聞きしました。いろいろな話をさせていただくなかで「先生の学校」の話になり、「それを実現させましょう!」と二人で意気投合したわけです。

―先生たちからの要望だったんですね。
高濱: 先生たちは、大学の先生にいろいろ習い、教員免許を取り、現場に出ます。ところが、現実に教え始めると、あの苦しみ、この苦しみみたいなものが始まる。みなさん、真面目で本当に誠実な人ばかりです。教員になった教え子から、一緒にやっていた先生が心を病んで急に学校に来られなくなった話やお母さんたちからクレームで突き上げられた話が聞こえてくるんですよ。僕だったら先生たちに何か伝えられることがあると思いました。特に保護者対応の面はすごくね。

―教育現場には男の先生、女の先生、若手、中堅、ベテラン、いろいろな先生がいます。若手教員に対象を絞ったのはなぜですか?
高濱: まだ若いうちに、大学の先生は教えてくれない情報、「教育実学」とでも呼びましょうか。現場の肌感覚で、「こうやったらうまくいくぜ」みたいな情報は、若い人のほうがいいなと思って…。やっぱりプライドもあるし、自分は自分としてやってきたという自負もあるでしょうから、受け止めてくれる度合いが若手のほうが柔軟だということもあります。

■「教育実習」ではなく「教育実学」を教えたい

―新採用の先生は初任者研修があり、指導教員もつき、「手取り足取り」のイメージがありますが…。
高濱: 残念ながら先生たちが受ける研修では、私が講演で話している内容のことは全然やっていない印象があります―研修が意味ないという意味ではないですよ。教育学や心理学のいろいろな知見など、それは十分意味があるんですけど、ビジネスとして教育に取り組んでいるから見えるようなノウハウ的なことといえばよいかな。目の前の現実を動かすときの、泥臭い、だけど、こういう視点で動かすとグッと動きますよ、という話がいっぱいあります。私ならこういう話がいくらでもできますからね。

―大学の教職課程では教えてくれない「教育実学」なんですね。
高濱: そうです。

―高濱先生はご著書もご講演も多数ありますが、学校の先生を対象にしたものにはどのような内容がありますか?
高濱: 著書では先生向けにノート法を書いた本(『学校でできる! 学力がグングン伸びる学び方指導&ノート法』明治図書出版)があります。講演会では、全国の教育長さんにお話をしたり、自治体単位で呼んでいただいたり、いろいろです。

■学校は親との間に線を引いてはいけない

―教育長の先生たちにどんなお話を?
高濱: 「先生の学校」でお話ししているような話ですよ(笑) 『「自分」の壁』という養老孟司さんの本がありますが、人間というのは自分と外をいつも線引きして考えたがる習性みたいなものがある。例えば、「つば」って「ペッ」とやった途端に汚いと思うでしょ、ついさっきまで自分の中にあったのに。中にいる分には味方だし、何も問題と思っていない、「ペッ」とやった途端に汚いと思う。こういう「線引き」ということが悲劇のいろんなもとにあって、それは「自分の壁」という言葉で、説得力を持って語られています。講演では、今の学校は、わざわざ「線引き」を学校側からしているという話をしました。粗相がないように対応したり、あるいは顧客満足のノウハウから来るような対応をしたりすると、親としては、されればされるほど腹が立ってくるんですよ、と。

―対応をされればされるほど腹が立つ、怖い話ですね。
高濱:どうしてそうなってしまうのか、不思議ですよね。本来ならば、子どもを挟んで親と先生は同じサークルの中に入っている仲間ですよ、という物語をつくっていかなければいけない。それなのに、わざわざ線引きして、内側から「クレームはないですよ」とやるからトラブルになるんです。
「花まる学習会」では、入会した以上は私の講演会を絶対聞いてもらいます。それは「同じサークルの中に来てください」というメッセージです。これからは仲間ですよ、こっちもずけずけ言いますけれども、お母さんも何かあったらバンバン言ってくださいね、と。こういう距離感で来られたら、お母さん、うれしいですよ。例えば、ちょっとした事務的なミスがあったとします。自分の壁を引いているとクレームになります。「何でうちだけもらってないんですか。どういうチームでやっていらっしゃるんですか」と言う感じでね。でも、仲間なら「先生、もう、やーだ」とか言いながら終わり、許してくれるわけです。まさにコレが現場で培ったノウハウ。そう言ったら、教育長さんたちは「そうそう」と深く頷いていらっしゃいました。

■伝えたいことがあふれてきた第1回講義

―「先生の学校」は全6回。2015年12月にスタートし、2016年9月まで続きます。第1回目の講義は緊張されたのではないですか?
高濱: 緊張していたという記憶はないんですよ(笑) 言いたいことがあふれちゃって、「いよいよだぜ」と思ったのは確かです。先生たちに話す「先生の学校」をつくっていただいたのでね、伝えたいことがあふれちゃって。最後の最後まで、事例と言いたいことがあふれてしまい、それを選別しながら先生たちにお話ししていました。

―緊張というよりも、受講生との距離感というのでしょうか。受講生である先生たちがピチっと背筋を伸ばして座っていらしたので・・・
高濱: 相手が緊張するとこっちも緊張する感覚ですね。お互い警戒しているようなところはあったかもしれないですね、最初は。どの講演会もカラーがあります。その地域の文化とか、参加者がお父さんあるいはお母さんだけとか、夫婦だったりとか。カラーが違うのでライブなんですよね。話しながら修正していきます。

■保護者に困っている人に伝えたいこと

―第1回目のテーマ「保護者を味方にするには」は最初から決めていましたね。保護者対応を真っ先に取り上げた理由は?
高濱: 教員をしている友人と話をすると、相当な頻度で「保護者に困っている」話を聞きます。よっぽど困っているんだろうなぁと痛感していましたので。

―2回目以降のテーマは保留にしていましたが、1回目の講義が終わったあとに、先生は6回目までのテーマをすぐに決められましたね。
高濱: はい、参加者がアンケートに書いてくださった意見を参考にしました。この辺がニーズだなということを確認したし、私なりに今まで触れてきた公教育の先生をイメージして、これとこれとこれだったら絶対必要だよなというテーマを整理して6回までのカリキュラムをつくりました。

■静かにしなさい!と言ったら先生失格!?

―2回目テーマをウェブサイトに掲載した途端にアクセス数が急増しました。どんな想いでタイトルをつけられたのですか?
高濱: 先生というのは大体「静かにしなさい」と言っちゃっているでしょ(笑)。いっぱい伝えたいことがあるなかで、この事例も先生を説得できるよな、と思いました。先生が「よし、聞きに行こうかな」と思ってくださると直感しました。

―「静かにしなさい!」と言いがちな先生たちはドキドキしながら講義を聞いていたことでしょうね。
高濱: 先生たちの反応はずっとよかったですね。「これを考えてください」と言ったときに、みんなバーッと活性化していたので。子どもってどういうものだという問いにもすごく食いついてきていたし、「赤い箱/青い箱」と表現している年齢の違いについても、幼児期はこうだ、思春期はこうだという特徴も頷きが強かったですね。

―「静かにしなさいと言ったらダメですよ」はどこで出てくるんだろうと講義を聞いてたら、最後のNGワードに出てきました。受講生も先生も気が休まる間がない2時間ですね。
高濱: もうずっとそれでいきますよ(笑)

■学校や教員が求める支援とは

―「こども教育支援財団」は、子どもや教育に対する支援を事業として行っています。支援対象や方法は様々ですが、学校や教員に必要だと思われる支援、あるいは不足していると思われる支援はありますか?
高濱: 一言で煎じ詰めると、先生という職業をやっていく喜びを感じられるような支援かな。「こなす仕事」というのは、一番いけない1つの軸です。喜びを持って日々楽しいというのが真ん中あたり。いろんな先生がいます。私は、先生個人の問題ではなく、仕組みに問題があるとずっと思っています。先生たちにもそう言っています。意識改革でしょうか。こういう目で見ると先生は今の仕組みの中でもずっと楽にやれますよ、と。現場としてのノウハウを私や花まるグループは持っているつもりなので、そういうものを伝えられたらいいなぁと思います。

―高濱先生は、2016年度、学校や教員に対してチャレンジしたいと思っていることは何でしょうか?
高濱: とにかく一番のチャレンジは、この「先生の学校」です。この企画を極めたい。受講生からいっぱいリアクションをもらって、こっちの問題点もちゃんと何度も何度もつくり直して、修正して。いろんな先生がいつ聞いても、「確かにためになるよ、あれは聞いておいたほうがいいよ」というものになるように頑張りたい。もう一つは、公教育分野での貢献です。ビジネスとしては持ち出しなのですが、佐賀県武雄市、長野県や熊本県、宮崎県でも公教育のお手伝いをしています。これも頑張りたいですね。

■受講生へのメッセージ

―第6回目の講義は2016年9月。ロングランの企画ですが、改めて「先生の学校」への想いを聞かせてください。
高濱: 先生方が本当に教育の現場に来てよかったなと思えるような助けになれば嬉しい。きれいごとじゃなく、日々楽しく授業や学校・学級運営をしてほしいんです。今の仕組みのままで、ここまで幸せになってもらえますよ、ということを提示したい。

―受講生のみなさんに伝えたいことはありますか?
高濱: ノウハウを学ぶのではなく、視点を変える、つまり意識改革です。例えば、お母さんというのはクレームがないようにしなければならない対象から抱きしめる対象に変換する。敵ではなく、懐に入る仲間なのです。それは意識の改革じゃないですか。もう一つは男女の違いをもっと意識してほしい。例えば、男の先生はお母さんがわからないと悩んでいたとして、お母さんというものをわかるだけですごく世界が楽しくなってくるし、もっといろいろ知りたいなと思える。前向きになっていって、先生をやっていて本当に楽しくなる。

―視点を変える、意識を変えるだけで楽しくなるんですね
高濱: そうです。 教育ほどおもしろい仕事はない、そういう思いで教育の世界に入ったんだけど現実の壁にぶち当たった。いろいろな仕組みだったり、しがらみだったり、親との壁だったり、何か出さなきゃいけない書類だったり、いろんな壁があるわけですね。そういうものに対して、少しでも先生方が楽しくなってもらえるなら、先生をやっていてよかったと思ってもらえるなら、とてもうれしいです。

―ありがとうございました。

(インタビュー実施日:2016年1月17日 構成:こども教育支援財団)

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